2021/10/31 に衆議院選挙が行われて、岸田さんが今後しばらく総理大臣の職を行うことになりましたが、グラスゴー COP26の場で、「日本はアンモニア発電で環境対策する」って演説するとは思わなかった。
あの人、バカなの?
アンモニア発電をしても、世界の炭素排出量にはあまり変化はなく、日本の二酸化炭素排出量を他の国に押し付けるだけってことだと、マスコミの誰も叩かないってどういうこと?と思い、このメモを残すことにしました。
誰もが知っている義務教育レベルの知識で考えればわかることです。
アンモニアは燃やせる
まず、アンモニア NH3 は、窒素原子1個と水素原子3個で構成されているので、燃焼(O2と反応)させても二酸化炭素CO2は発生しません。アンモニアにマッチで火をつけても燃えませんが、反応炉でうまく火を付ければ、継続燃焼して熱を取り出せます。(この場合、酸素と反応した時にNOxが発生しないようにうまくコントロールする必要があります。NOxが発生したら、二酸化炭素排出よりたちが悪い事態になりますから。)
アンモニア燃焼熱で発電できるからカーボンニュートラルで、日本の発電は化石燃料燃焼方式をやめて、アンモニア燃焼方式に切り替えてゆくというのが演説の内容と受け取れました。
近視眼的で短絡的だと思いませんか?
アンモニアはどこにある?
石油と違って、アンモニアはどこかの地面を掘れば出てくるというものではないことは、義務教育を終えた人なら誰でも知っているでしょう。
自然界にあるアンモニアは少量。地面の下にはなく、大量に必要な場合、空気中の窒素と、何かほかの元素と結びついている水素を取り出して、うまく反応させて合成するしかない物質です。どこかに大量に遊んでいる物質ではありません。
物質から異なる物質を作るにはエネルギーが必要になります。
エネルギーを1 投入してつくった燃料から、燃焼で10 のエネルギーを取り出せるなら、アンモニア発電もいいですよ。
自然の法則はそんなに便利にできていません。エネルギー 1 を投入するなら、そこから取り出せるエネルギーは、ほぼ1です。それ以上のエネルギーを取り出せるのは、反応前の物質そのものが持っているエネルギー。
化石燃料は、過去の太陽エネルギーを地面下に閉じ込めたものですら、掘り出して分離すればエネルギーとして使えます。アンモニアは自然界に大量にある物質ではありません。
アンモニアはどうやって作る?
天然には大量に存在しないアンモニアを発電所で燃やすほど大量に使うには、工業的に合成するしかありませんが、その材料はどこから来るのか?
アンモニアの組成は窒素と水素なので、空気中の窒素と水から簡単に合成できればいいのですが、現在はそうなっていません。
N2 + 3 H2 → 2 NH3
窒素は空気中のものを(エネルギーをかけて液化して)利用できますが、水素は雨水由来ではなく、天然ガスを分解して作り出しています。化石燃料 CH3 の中の H を利用しています。水素を取り出して余る炭素は、地面の下から地面の上に出て残ってしまいます。
アンモニアを作るなら、水素 をどこから持ってくるのか?が課題です。現時点では化石燃料由来の水素ですから、アンモニア自体は燃焼で二酸化炭素を出さなくても、アンモニアを作る時点で大量の炭素を発生させて温暖化進行の原因になります。この時点で、今、アンモニア発電を始めても、温暖化防止の役に立たないことはわかるでしょう。
日本政府が輸入アンモニアを既存火力発電所で燃焼させることを想定しているなら、日本が発電するために、発生する二酸化炭素を海外の国に押し付けているだけです。もし、経済力が弱い国から輸入しようという考え方なら、これってフェアーと言えますか?
水素の作り方としては、天然ガスから取り出すほか、水を電気分解して酸素と水素に分離する方法があり、その水素を使うという手もあります。水を電気分解して取り出した水素と窒素から合成したアンモニアを輸入して初めてカーボンニュートラルな火力発電となりますが、これは大きなエネルギー浪費でもあります。
エネルギーを投入して合成した物質から、投入エネルギー以上のエネルギーを取り出すことは、原理的に無理!ってことです。単にロスを覚悟でエネルギーを運搬するだけ。
水を電気分解するだけの電力があるなら、その電力をそのまま電力網を通じて消費する方がロスがありません。
太陽光発電の余剰電力があるときに、水を電気分解して水素を作り、その水素だけ使って、アンモニア合成して初めて二酸化炭素を排出しない燃料となるわけです。
ゆっくり考えればこれくらいのエネルギー収支は理解できるはず。
化石燃料を使う現在の火力発電のエネルギー効率ってどれくらいだと思いますか?
最新の火力発電所で約50%。燃やした化石燃料の半分は、低品質の熱として捨てられているわけです。
まず、気化した化石燃料をガスタービン(ジェットエンジン)を回して発電させる。さらに、ジェットエンジンの高温排気で高温蒸気を作ってタービンを回し、このハイブリッド発電でやっと50%のエネルギー効率。蒸気タービンだけの古い火力発電方式だと良くても30%くらいでしょう。自動車のガソリンエンジンのエネルギー効率が30%くらいのことを考えれば納得できる数字。
アンモニアを火力発電に使うとして想像できることは、アンモニア燃焼後、蒸気タービンは回せるだろうけど、ガスタービンとのハイブリッド化は無理なんじゃないか?仮にできたとしても熱エネルギー効率50%。できない場合は30%。100のエネルギーを掛けて作ったエネルギーから取り出せる見込みのエネルギーが30~50しかないのなら、ロスが大きすぎる。しかも、アンモニア輸入前提でしょ。ますますロスが出る。
COP26の場で、アンモニア火力発電を増やす なんて演説するのは、日本の二酸化炭素排出量を他国に押し付けます。アンモニアを買うから、おたくで炭素排出を処理してね。って言っているのと同じです。
マスコミの誰も疑問に思わないの?日本にアンモニアを輸出する国って、これ、わかってますよね?
それとも、数字のからくりで、アンモニア合成用水素に使う炭素はカウントしないって約束でもあるのだろうか?数字をいくらいじっても地球は温暖化します。
多分、日本のマスコミは、政府、経済界の圧力に屈しているんでしょう。政府も電力関係事業者も今の日本の枠組みを崩したくないのです。
アンモニア発電に未来はないのか?
アンモニアを輸入して火力発電で燃やすのは、バカとしか言いようがない枠組みです。
しかし、化石燃料を使わず、アンモニアを国内リソースだけで生成できるなら、発電燃料の他、水素を取り出すのが比較的簡単な含有物質として非常に価値が高い重要物質の話となります。
問題は水素をどこから持ってくるのか
結局のところ、どこにある水素を使ってアンモニアを合成するのかがカーボンニュートラルかどうかの見極めポイントとなります。アンモニアの話じゃなくて、水素の話なんです。
安全に水素を取り出すなら、日本国内で水を電気分解して取り出すしかありません。そして、近距離のプラントで使う。ただし、水素は保管や運搬がとっても難しい。水素の沸点は約マイナス253℃なので、液体として保管したいならそこまで温度を下げなきゃいけません。ファイザーコロナワクチンのマイナス80℃保管さえ満足にできない日本で、管理を間違えると大爆発が起きる水素を液体で管理する拠点を多数設けるなんて無理。
やむを得ず、水素をアンモニアの形に変えて貯蔵、運搬するという中間物質のアンモニアに価値があるってことになります。余剰太陽光発電エネルギーから水素、そしてアンモニア合成を行うプラントを各地に作るって目標になりますね。または、水素吸収合金を使って水素を保管するって手がありますが、私にはどの程度の重量比を保管できるかわかりません。日本の電力需要数日分を吸収、保管できるだけの水素吸収合金が存在しているのだろうか?
エネルギー源としてアンモニアを使うなら、火力発電所で燃やすのではなく、電力消費地近くで触媒を使ってアンモニアから水素を取り出し、水素と酸素による燃料電池で電力を供給する方式の方がパフォーマンスが優れているはず。小さなアンモニア発電所をたくさん作る。そうすると、今の日本の電力供給方式枠組みが崩れるから、電力会社は邪魔しようとするでしょうし、爆発はしないといっても、アンモニアは漏れると劇薬ですから、管理できる人を大量に育てないといけないという課題もあります。
政府のプランが、海外の誰かが作ったアンモニアに期待して既存火力発電所で利用すると計画しているのなら、それは偽善者の考え方。岸田総理の発言が実行されても温暖化防止には役立ちません。恐らく、二酸化炭素放出量は増えるでしょう。
再生エネルギーを使って、水から水素を取り出し、水素の貯蔵、運搬が難しいから、アンモニア合成する必要があるというわけで、アンモニア火力発電を最終目的とすべきではないはずです。アンモニア火力発電は、数あるエネルギー供給方法の中の一つと考えるべきです。アンモニアは地下資源ではないですから、空気と水からアンモニアを生成する前提なら、世界各国が同じ条件。輸入前提ではなく、国内製造すべきもの。
日本の総理、自分で発言したことの意味わかってますか?頭の中で合成、運搬、発電、排ガス処理まで考えていますか?
そして、マスコミさん、ちゃんとエネルギーと物質がどうループするかの解説しなさいよ!
将来の電力供給
太陽光発電は、太陽光パネル設置後クリーンな電力を発電してくれますが、季節、地域、天気の影響を受けやすく、夜は発電できず、曇りや雨の日、雪の日が続くと発電機能が麻痺しますから、ベース電源としては期待できません。世界のありとあらゆる場所に太陽光パネルを設置して電力網を構築し、昼間の地域から夜の地域に電力供給できるようになれば別ですが、そういう世界はまだまだ先の話。 当面は、一日の消費に必要以上の電力を発電し、バッテリーに蓄えるか、別の化学物質に変えるか、位置エネルギーに変えて保持し、必要な時に開放するやり方しかないでしょう。
太陽光が無い夜間、冬場の悪天候が続くときをどう乗り切るのか?が課題となります。 原発が止まるまでは、主に原子力発電を国のベース電源として使い、季節変動分を火力、時間変動分を水力に分担させるような構成でした。しかし、今はとにかく化石燃料由来火力発電所を止めなきゃいけない状況。 太陽光が無い時間の電力を、どう、太陽光発電と結びつけるかを考えなくちゃいけません。 もちろん、地熱、風力、波力、揚水などが考えられますが、夜間と悪天候が続く日々を考えると、単体では力不足。太陽光発電による昼間の余剰電力を消費量の何倍も大量に発生させ、エネルギーの形を変えて蓄積して、蓄積した物質を必要な時に再エネルギー化してしのぐようなやり方です。 ベース電力が原子力だったころ、夜間の余剰電力を利用して給湯する仕組みが、電力会社のお得な夜間電力料金設定でしたが、今後は、昼間の余剰電力で給湯したり、夜間の生活をするような仕組みに変えてゆかないといけないということです。それにしたって、冬場に大雪が一週間続くことに備えるとなると、相当な量のエネルギーを変換蓄積しておかないといけませんね。
クリーンエネルギー供給ネットワークが現実になるまでは、原子力発電が最も有望ですので、各地の原子力発電所を早くフル稼働状態に戻すことが重要です。そうすれば、バカなアンモニア火力発電なんか使わなくても化石燃料燃焼を減少させることができます。
そして、国内の原子力発電用燃料を使い切る前に、バイオマス発電を立ち上げる。
日本の国土の6~7割は森林ですから、毎年発生する大洪水を防ぐ意味でも山林のメンテナンスは必要です。化石燃料ほど効率は高くないものの、山林メンテナンスで発生する間伐材とエネルギーを結び付けられれば、温暖化問題の何割かを吸収することができるはずです。
バイオマスから電力を作るだけでなく、農業で必要な熱を供給したり、山林メンテナンスのための雇用創出、果てにはバイオマスエネルギー輸出なんてことも可能かもしれません。50年前は出来ていたんだから今できないわけはないんです。政治に本気でやる気があるかどうかだけ。